『プリンス・オブ・ブロードウェイ』初日リポート

更新日:2015/10/28

ドラマティックで心を揺さぶられずにいられない、ブロードウェイミュージカルの祝祭──!
10/23(金)、渋谷・東急シアターオーブでついに初日の幕を開けたワールドプレミア ミュージカル『プリンス・オブ・ブロードウェイ』(POB)は、偉才ハロルド・プリンスの案内で華やかなブロードウェイミュージカルの歴史を瞬時に旅するような、そしてキャスト10名の圧倒的なパフォーマンスを通してミュージカルが持つ尋常ならざるエネルギーを再認識するような、あらゆる意味でエキサイティングな舞台だった。

ALL I NEED IS ONE GOOD BREAK(『フローラ、赤の脅威』より)

当日の会場は、さながら『プリンス・オブ・ブロードウェイ』デイ。
18:30の初日開幕に先立って、13:00からはマスコミと一部一般客を招待し、プレビュー(※通常、ブロードウェイ公演は初日前の数週間~1カ月を使って通常公演と同様のプレ上演を行い、ショーの精度を高めていく)を兼ねた公開ドレスリハーサルを実施。
開場時間には劇場ホワイエで初日レッドカーペット取材も行われ、プリンスと共同演出・振付のスーザン・ストローマンをはじめとする『POB』クリエイティブチームのほか、デーブ・スペクター夫妻、湖月わたる、花總まり、藤原紀香(※来場順)ら著名人の来場者が初日に華やぎを添えた。

そして、いよいよ開幕!
オーケストラの奏でる序曲からしてワクワク感がすごい。
有名ミュージカルのトリビア大会のように、聞き覚えのあるメロディーが賑々しく演奏され、同時にプリンスがブロードウェイで手掛けたミュージカル作品のタイトルが次々と紗幕に投影される。
そのたびに拍手が巻き起こり、その最新作として“PRINCE OF BROADWAY”のタイトルが登場。
ここから、目と耳、感情と記憶を総動員する怒濤のミュージカルショーのスタートだ。

市村正親の吹替でハロルド・プリンスのモノローグが随所に挟まれ、彼がこれまでプロデューサーとして、また演出家として60年以上のキャリアを通して手掛けてきたミュージカル作品が紹介されていく。
クラシックな響きのする懐かしの演目(『くたばれ!ヤンキース』)から、現在も世界中で上演され続けている人気作(『オペラ座の怪人』や『エビータ』)、日本では上演機会のなかった幻の名作(『フォーリーズ』)もあれば、ミュージカルファンでなくても知っている大名作(『ウエスト・サイド・ストーリー』や『屋根の上のヴァイオリン弾き』)もある。

  • 『くたばれ!ヤンキース』

    ▲『くたばれ!ヤンキース』/左からラミン、トニー、ジョシュ、シュラー

  • 『ウエスト・サイド・ストーリー』

    ▲『ウエスト・サイド・ストーリー』/ラミン、ケイリー

今後のブロードウェイでの上演を視野に入れてのことか、劇中にはプリンスのモノローグによる解説がないままで、残念ながら日本の観客にとっては演目の背景が分からない作品もいくつか登場するが、その違和感を最低限に抑えてくれるのが、キャストの圧倒的なパフォーマンス。
本場ブロードウェイから来日したトップクラスの俳優たちがそろい、どのナンバーも彼らの演技を観ているだけで胸がいっぱいになってしまう。

劇中に登場する演目は、メドレーとして演奏されるものも含めると1幕・2幕合わせて全21作品。
数曲を除いては、楽曲を通して各演目のストーリーが垣間みられる構成になっており、舞台美術や衣裳デザインも場面展開に合わせてドラマの背景をサポートする内容に。
盛りだくさんの楽曲構成ゆえシンプルなシーンもあるが、『フォーリーズ』や『スウィーニー・トッド』など、じっくりと物語を語る場面も多い。
2幕冒頭の『カンパニー』では初演にオマージュを捧げた衣裳が登場し、オリジナル版のファンは感涙必至だ。

  • 『フォーリーズ』

    ▲『フォーリーズ』/左からケイリー、マリアンド、ジョシュ、ラミン

  • 『カンパニー』

    ▲『カンパニー』/オリジナル版のファン必見の衣装が登場

すべてを語るにはとてもスペースが足りないが、『POB』最大の見どころはやはり、キャストのレベルの高さだろう。
ブロードウェイからの来日キャスト9名と、去る5月に宝塚歌劇団を退団したばかりの元星組トップスター・柚希礼音の計10名が、とにかくすごい。

柚希礼音

▲柚希礼音

冒頭、誰より最初に目を引くのが柚希だった。
『くたばれ!ヤンキース』の小悪魔ローラに扮したダンスパフォーマンスは圧巻。
彼女のファンにとってはまず、野球のユニフォームを大胆に脱ぎ捨てた衣裳が衝撃的だったに違いないが、それ以上に見事だったのがやはりダンスの華やかさ。
〈ワットエヴァー・ローラ・ウォンツ〉と言えば、初演のグウェン・ヴァードンや再演のビビ・ニューワースなど、小柄なスターダンサーの名シーンとして記憶に残るが、長身の彼女の脚線美には目を見張った。
ダンスの名手として名高いトニー・ヤズベックのリードのもと、しなやかに生き生きと踊る柚希は、まさに振付家スーザン・ストローマンが理想とするタイプのダンサーだろう。
『コンタクト』のイエロードレスの女や、『プロデューサーズ』のウーラなど、背の高い女性ダンサーにダイナミックで優美なダンスを振り付けてきた彼女らしい、眼福のナンバーと言える。

トニー・ヤズベック

▲トニー・ヤズベック

柚希以上にダンサーとしての驚異的なパフォーマンスを見せたのが、前述のヤズベック。
『フォーリーズ』では実年齢より上のバディ役に扮し、〈ライト・ガール〉で過去に取り憑かれ、現実を真正面から受け入れられない中年男性の憤りを劇的なタップダンスで表現。
2幕では柚希と組んでオリジナルのダンスナンバー〈タイムズ・スクエア・バレエ〉(プリンス作品のナンバーをメドレーとして構成)を牽引し、ミュージカルの華やぎを軽やかにつづってくれた。

続く8人のキャストも、それぞれが他と比較しようもないほど素晴らしかった。
深みのある美声とずば抜けたボディーランゲージで、『シー・ラヴス・ミー』のジョージや『キャバレー』のMCなど、個性の異なる強烈な役柄を自分のものとしたジョシュ・グリセッティ。
トニー賞受賞者のシュラー・ヘンズリーは、『屋根の上のヴァイオリン弾き』のテヴィエや『スウィーニー・トッド』のスウィーニーなど、彼の主演でフルプロダクションが今すぐにも立ち上がりそうな完璧な役作りで大役を自在に造型。
ラミン・カリムルーは、当たり役である『オペラ座の怪人』のファントムはもちろん、『ウエスト・サイド・ストーリー』のトニーから『カンパニー』のボビーまで、彼の持ち味である真摯なパフォーマンスで観客を魅了した。

『キャバレー』のシュナイダー婦人や『スウィーニー・トッド』のミセス・ラヴェットで多面的な人物像を1曲の中で表現し尽くしたのは、カメレオン女優的な個性を持つベテラン、ナンシー・オペル。
『キャバレー』のサリーが歌うタイトルソングをはじめ、常に完全なる喝采をモノにしたのはブリヨーナ・マリー・パーハム。彼女が登場する場面は、ミュージカルファンにとって至福の瞬間そのものだ。
スター女優の貫禄に満ちたエミリー・スキナーは、『リトル・ナイト・ミュージック』の〈センド・イン・ザ・クラウンズ〉、『カンパニー』の〈レディース・フー・ランチ〉など難曲を歌いこなしたほか、〈タイムズ・スクエア・バレエ〉の導入として挿入された〈ブロードウェイ・ベイビー〉で最高のパフォーマンスを見せ、名曲に新鮮な感動を付加。
マリアンド・トーレスは『エビータ』のタイトルロールで、若手ケイリー・アン・ヴォーヒーズは『オペラ座の怪人』のクリスティーヌ役で、それぞれ卓越したボーカルを披露している。

  • ジョシュ・グリセッティ

    ▲ジョシュ・グリセッティ(『シー・ラブズ・ミー』のジョージ)

  • シュラー・ヘンズリー

    ▲シュラー・ヘンズリー(『屋根の上のヴァイオリン弾き』のテヴィエ)

  • ラミン・カリムルーとエミリー・スキナー

    ▲ラミン・カリムルーとエミリー・スキナー(『カンパニー』のボビーとジョアン)

  • ナンシー・オペルとシュラー・ヘンズリー

    ▲ナンシー・オペルとシュラー・ヘンズリー(『スウィーニー・トッド』のミセス・ラヴェットとスウィーニー)

  • ブリヨーナ・マリー・パーハム

    ▲ブリヨーナ・マリー・パーハム(『キャバレー』のサリー)

  • エミリー・スキナー

    ▲エミリー・スキナー(『リトル・ナイト・ミュージック』のデジレ)

  • マリアンド・トーレス

    ▲マリアンド・トーレス(『エビータ』のエヴァ・ペロン)

  • ラミン・カリムルーとケイリー・アン・ヴォーヒーズ

    ▲ラミン・カリムルーとケイリー・アン・ヴォーヒーズ(『オペラ座の怪人』のファントムとクリスティーヌ)

エピローグを飾るのは、本作の音楽スーパーバイザーも務めるトニー賞受賞者ジェイソン・ロバート・ブラウン書き下ろしによる新曲〈ウェイト・ティル・ユー・シー・ワッツ・ネクスト〉。
名曲のオンパレードだった全編のラストを締めくくるにふさわしい軽やかなナンバーだが、「新たな物語、新世代のアーティストの誕生に、何よりも心躍らされる」というプリンスのモノローグとともに、役柄を離れて素の自分に戻った10人の俳優たちが登場するこのエンディングは、やはり胸に迫るものがあった。

スタンディングオベーションとたっぷりのカーテンコールの最後には、プリンス、ストローマン、脚本のデヴィッド・トンプソンとブラウンもステージに登場。満場の喝采を一身に受けていた。

終演後のオープニングパーティーで乾杯の音頭をとったのは、もちろんプリンス。
「誰よりも才能豊かな10名の俳優たち、共に創作に携わったすべてのカンパニーメンバー、そしてこれまで素晴らしい作品を生み出してくれたすべての作家、作曲家、作詞家たちに心からの感謝を」と、喜びに顔をほころばせ、関係者が集う華やかな初日の夜が更けていった。

東京、大阪2都市で12/10(木)まで続く『プリンス・オブ・ブロードウェイ』。
感動のミュージカルショーは、今まさに始まったばかりだ。

(文=武次光世(Gene & Fred)/撮影=福岡諒祠(GEKKO))

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