『プリンス・オブ・ブロードウェイ』製作発表記者会見リポート

更新日:2015/7/4

集合写真/製作発表

(文=三浦真紀/フリーライター 撮影=花井智子)

こんなに気持ちがワクワクする記者会見は、かつてあっただろうか。まるでブロードウェイがそのまま、東京に引っ越してきたかのような贅沢さだ。今回来日を果たした『プリンス・オブ・ブロードウェイ』のカンパニーメンバーは、作品タイトルにもその名を冠した演出のハロルド・プリンスを筆頭に、共同演出・振付のスーザン・ストローマン、キャストのシュラー・ヘンズリーとケイリー・アン・ヴォーヒーズの4名。

まずトニー賞俳優シュラー・ヘンズリーが、『屋根の上のヴァイオリン弾き』より主役テヴィエの有名なナンバー「If I were A Rich Man」を歌唱。両手をあげてステップを踏みつつ、深く響く美声で、まさに飄々としたテヴィエがそこにいる。続いて『スウィーニー・トッド』のタイトルロール、スウィーニーのソロナンバー「My Friend」が始まった途端、表情が一変して闇の世界へ。剃刀を見つめながら歌う様は、恨みを積もらせた理髪師の顔だ。ヘンズリーはこの2役を演じたことがなく、会見前日にプリンスと話してイメージを膨らませたとか。恐るべき表現力である。

シュラー・ヘンズリー/My Friendより

ケイリー・アン・ヴォーヒーズは、現在まさに彼女自身がブロードウェイ版に主演している『オペラ座の怪人』より、「Wishing You Are Somehow Here Again」を披露。吸い込まれそうな大きな瞳と瑞々しく凛としたソプラノ。21歳でブロードウェイのクリスティーヌ役に抜擢された実力を日本で初披露した。

ケイリー・アン・ヴォーヒーズ/Wishing You Are Somehow Here Againより

二人の歌声で気分がグンと上がったところ、改めてプリンス、ストローマン、ヘンズリー、ヴォーヒーズが紹介され、そこに、唯一の日本人キャストとして本作に出演を果たす、柚希礼音が並ぶ。取材陣のフラッシュが勢いよく焚かれ、会場に熱気が広がっていく。

その時、マイクを通して「♪私の宝物に〜手を出す奴〜」と『オペラ座の怪人』からの名ナンバーを歌う、よく知る声が! 日本のミュージカル界を代表する、市村正親の登場だ。ここでなんと、市村が『プリンス・オブ・ブロードウェイ』の劇中で、ステージに映像として投影されるハロルド・プリンスの声を務めるということが発表された。
この日は、『オペラ座の怪人』日本初演以降、永年にわたって信頼関係を深めてきた二人の出逢いのエピソードも披露された。日本で最もプリンスに近い俳優である市村が、どのように彼の声を演じるのか。プリンスは「イチは恐るべき賢さと感性の持ち主。自分の声を演じられるのは、彼以外ありません。ユーモアのセンスもとても素敵」と太鼓判を押す。

ハロルド・プリンスと市村正親

ハロルド・プリンスと市村正親

また唯一の日本人キャストとなる柚希礼音について、『クレイジー・フォー・ユー』や『プロデューサーズ』をはじめとする大ヒット作で数々の名ダンスナンバーを手掛けてきたストローマンは、「類稀なるパフォーマーであり、ダンサー。存在感の大きさ、技術の確かさを感じました。彼女のために振付をすることを今から楽しみにしています」と絶賛した。

スーザン・ストローマンと柚希礼音

会見を通して一番心に残ったのは、プリンスがたびたび「私は運(luck)に恵まれた」と語ったことだ。ブロードウェイの第一線で活躍し続けるのは、並大抵のことではない。かなりの才能の持ち主でさえ、簡単に脱落する。きっと彼の言う「運」には、チャレンジ精神やリスクを恐れない勇気、強靭な心も含まれているに違いない。 Mr.ブロードウェイであるハロルド・プリンスの新作を日本発信で創る。そんな時代が来るなんて、まさに奇跡! プリンスの60年にわたるミュージカル人生は、きっと私たちに「運」の本当の意味を教えてくれることだろう。

ハロルド・プリンス[演出]
ハロルド・プリンス
まず『プリンス・オブ・ブロードウェイ』が、私の大好きな日本で世界初演を迎えることができることを心から嬉しく思います。
初めてこの企画を提案された時、実は躊躇しました。自分の作品を振り返るなんて、まるで自分の広告みたいで気まずかったのです。しかし魅力も感じました。私は運に恵まれて、長いことブロードウェイで活躍できたということが、はっきりしていたからです。
私が携わってきたここ数十年で、ミュージカルは著しく変化しました。私がこの仕事を始めた頃は、国際性といってもイギリスとアメリカぐらいでしたが、今は様々な国の人々がミュージカルを楽しむようになりました。これは本当に素晴らしいこと。ブロードウェイには日本、北欧、ドイツ、南アフリカなど、世界各国の皆さんがいらっしゃいます。
同時に、私たちが創り上げてきたミュージカル文化を守り、遺産として継承しなければいけないとも感じています。伝統を守る一方で、心を開いて進化を遂げなければいけません。皆さんと遺産を分かち合うことも大事です。
これらの理由から、『プリンス・オブ・ブロードウェイ』は誕生しました。皆様にお楽しみいただけることを願っております。
スーザン・ストローマン[共同演出・振付]
スーザン・ストローマン
『クレイジー・フォー・ユー』『コンタクト』に続いて、来日は3回目。ニューヨークで仕事をしている私たちは皆、ハロルドから演劇を学びました。彼が道を切り拓いた後を、私たちが歩んできたのです。本作を通してそれを皆さんと共有できることがとても嬉しいです。
市村正親[声の出演/ハロルド・プリンス役]
市村正親
僕はハロルド・プリンスとは『オペラ座の怪人』日本初演からのお付き合いです。再び彼に演出を受けた『蜘蛛女のキス』日本初演のほか、『スウィーニー・トッド』『屋根の上のヴァイオリン弾き』『キャバレー』『リトル・ナイト・ミュージック』『SHE LOVES ME』など、プリンスが演出した作品を10本ほどやっている日本人俳優は僕くらいだと思います。
今年は(ブロードウェイの『王様と私』で)ケン・ワタナベがトニー賞にノミネート。来年は僕がトニー賞を賑わせなくちゃいけないかな!……なんてことは、全然思っておりません(笑)。僕は日本で、日本の皆様の心に染み入るよう、プリンスの才能をお伝えできたらいいなと思っております。
柚希礼音[出演]
柚希礼音
(出演が決まってから)ずっと夢のようなお話だと思ってきましたが、今日この会見に出席して、夢ではないことを実感しております。先日、渡辺謙さんの特集番組を見て、ブロードウェイに挑戦なさっている姿に感動しました。私にとってこの作品への参加は高い壁ですが、思い切り挑戦しようと決めました。
先ほど(来日したカンパニーメンバーの)皆さんに私が緊張していると伝えると、「楽しみなさい」とおっしゃってくださいました。その言葉通り、楽しみながら挑戦したいです。英語も一生懸命勉強して、最終的には心が伝えられるように、お稽古を重ねて、日本に戻ってきたいと思っています。
シュラー・ヘンズリー[出演]
シュラー・ヘンズリー
まず日本の皆様にお礼を申し上げます。この企画の上演を可能にしてくれたのは、日本の皆様だからです。長く俳優をやっていますが、こんなにエキサイトしたことは今までありません。ハロルド・プリンスとスーザン・ストローマン、この二人と一緒に仕事をすることは、アメリカの俳優の夢でもあります。またこの作品の素晴らしいところは、すべてのナンバーがヒット曲であること。このような作品に出演できるのはこの上ない光栄です。
ケイリー・アン・ヴォーヒーズ[出演]
ケイリー・アン・ヴォーヒーズ
私は今回、日本に来るまでパスポートを持っていませんでした。初めて国外に出て、ワクワクしております。私は大学在学中に、(ブロードウェイ版)『オペラ座の怪人』のクリスティーヌ役が決まり、続いてこの作品への出演が決まりました。信じられない気持ちでいっぱいです。皆様にお楽しみいただけるよう、精一杯努めます。